異世界[恋愛]

標本

「うふふ」

 部屋の壁一面に飾ってある昆虫の標本を眺めていると、思わず口角が上がる。
 アゲハ蝶、カブトムシ、コオロギ、ギンヤンマ、等々――。
 昆虫のフォルムというのは、見れば見るほど美しい。
 いくら眺めていても飽きないわ。
 私はそれらの標本の中央にある、一つだけ中身が空のケースに右手を当て、感慨にふける。
 ――その時だった。

「お嬢様、そろそろ夜会のお時間です」

 侍女のアレハンドラに声を掛けられ、すっと現実に戻された。

「ええ、今行くわ」
「……相変わらず、圧巻の光景ですね」

 無機質な表情で標本を見つめながら、アレハンドラが呟く。

「うふふ、そうでしょ」

 本心ではどう思っているかはさておき、そう言われるのは悪い気はしない。
 さて、今日は大事な大事な夜会。
 気を引き締めないとね――。



「フェリシア、ただ今をもって、君との婚約を破棄する!」
「……」

 宴もたけなわとなった夜会の最中。
 私の婚約者であり、侯爵家の次男でもあるカルロス様が、唐突にそう宣言した。
 カルロス様には男爵令嬢のマルガリータさんが、庇護欲をそそる憂いを帯びた表情でしなだれかかっている。
 会場中の貴族の視線が、一点に集まる。

ESN大賞6 / シリアス / 悪役令嬢 / アイリスIF4大賞 / 婚約破棄 / ざまぁ / 異世界恋愛小説 / 女主人公/一人称 / 短編 / ざまあ / 123大賞4 / R15 / 残酷な描写あり
短編 2022/12/09 21:19更新
2,942字 48%
日間P
-
総合P
2,086
ブクマ
63
平均評価
7.84
感想数
27
レビュー
3
評価頻度
396.83%
評価P
1,960
評価者数
250
週間読者
-
日間イン
0回
ベスト
圏外
最終取得日時:2024/05/20 12:44
※googleにインデックスされているページのみが対象です