ヒューマンドラマ[文芸]

行水

「おい」
「はい?」

 おれは顔を上げて、助手席にいるマツダを見た。

「貧乏ゆすり、うぜえな。緊張してんのか?」

 車の揺れだと思っていたが、自分の足が震えていたらしい。おれは「あ、はい……初めてで」と答えた。マツダは鼻で笑った。

「俺は二度目だ。叩きなんて大したことねえよ」
「は、はい……」

 マツダは得意げに言ったが、強盗の経験を誇るのはどうかと思った。運転手が「もうすぐ着きます」と言い、マツダが「うっし」と呟く。
 ああ、いよいよだ。これからおれは強盗に加担する。いわゆる“闇バイト”だ。簡単な仕事だと聞いて来たのに、このマツダという男に会って早々、運転免許証とスマホを取り上げられ、逃げ道を断たれた。

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短編 2025/05/05 11:00更新
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最終取得日時:2025/07/09 12:10
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