空想科学[SF]

幸福税――全人類が不幸のフリをする時代に、正直に「幸せです」と申告した老夫婦の家へ差し押さえに行ったら、徴税官の私の脳波計が初めて鳴った話

 西暦2089年。人類は、幸福に課税することを決めた。

 全国民に装着が義務づけられたウェアラブル脳波計が、24時間、幸福度を測定する。ドーパミン、セロトニン、オキシトシン。基準値を超えれば、累進課税。結婚には「ハネムーン特税」、大笑いにはデシベル加算。撮られた笑顔の写真には、一枚300円の瞬間税。

 人類は、一斉に不幸のフリを始めた。

 SNSは愚痴で溢れ、愚痴代行サービスが上場した。新入社員研修に「泣き顔研修」が組み込まれた。結婚式で花嫁は「不安そうな涙」を誓約書で示す時代になった。街を歩く人は、みんなうつむいていた。

 私は国税庁幸福税徴収課の徴税官、エヌ崎エヌ。幸福を隠しきれない者から、課税する。

 ある日、机の上に、手書きで『当月、たいへん幸せでした』と書かれた申告書が置かれた。田舎の老夫婦。課税額、850万円。差し押さえのため、私は山を登った。

 ――そして、訪ねた家で、私の脳波計が、初めて鳴った。

ショートショート / ディストピア / 社会風刺 / コメディ / ほっこり / 税金
短編 2026/04/18 18:00更新
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最終取得日時:2026/09/14 12:14
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