ヒューマンドラマ[文芸]

七年待った婚姻届を後輩に奪われたので、私は元恋人が最も敵に回したくない男と結婚しました

 七夕の午前三時半。私は折りたたみ椅子を抱えて港区役所へ向かい、七夕限定の婚姻届記念受付で一番の整理券を取るため、五時間も待ち続けた。

 ようやく手にした一番の整理券。ところが、七年間付き合ってきた恋人は、私が三年間学費や生活費を援助してきた大学の後輩を連れて現れた。

 後輩の美羽は、おずおずと手作りのカードを差し出した。そこには「七夕限定・一日花嫁体験券」と書かれている。これが一生に一度の願いなのだという。

 以前の私なら、また私たちの間に割り込むつもりなのかと問い詰めていただろう。けれど、その日は何も言わず、提出するはずだった婚姻届を静かにファイルへ戻した。

「直哉。今日、その婚姻届を美羽と出すなら、もう二度と私の前に現れないで」

 ところが直哉は、私の手から一番の整理券を取った。

「璃子、意地を張るなよ。美羽はまたうつの症状が悪化してるんだ。ただ一度でいいから、誰かに迷わず選んでもらう経験がしたいだけなんだよ。この体験券は二十四時間だけだ。明日の朝、美羽と離婚届を出して、それから改めて璃子と婚姻届を出す。俺が本当に一生一緒にいるつもりなのは、ずっと璃子だけだから」

 美羽をかばうようにして戸籍窓口へ向かう直哉の背中を、私は追わなかった。泣きもしなかった。

 彼は知らない。

 私の中に残っていた最後の気持ちが、その瞬間にきれいさっぱり消えたことを。

 そしてもう一つ。

 私の後ろに並んでいた男も、今日結婚するはずだった相手にすっぽかされたばかりだった。

 しかもその男は、直哉が以前から「絶対に敵に回したくない」と口にしていた相手――九条ホールディングスを率いる若き経営者だった。

 偶然にも彼もまた、今日婚姻届を出す相手を失ったばかりだった。

シリアス / 女主人公 / 因果応報 / 復讐 / 御曹司 / ざまぁ / スカッと / 裏切り
短編 2026/08/14 14:27更新
14,132字 23%
日間P
18
総合P
68
ブクマ
2
平均評価
7.11
感想数
0
レビュー
0
評価頻度
450%
評価P
64
評価者数
9
週間読者
852
日間イン
0回
ベスト
圏外
最終取得日時:2026/08/19 12:05
※googleにインデックスされているページのみが対象です