ヒューマンドラマ[文芸]

ある視線

 ――え……?

 アパート暮らしの大石という男がいた。その夜、彼はふと部屋の中をゆっくりと見回し始めた。唐突に、何かの“気配”を感じたのだ。しかし、部屋の様子は朝出かけたときとまったく変わらない。玄関と窓の鍵はきちんと閉まっており、誰かが侵入した痕跡もない。
 だが感じる。言葉では説明しようのない、確かな存在感がそこにある。
 大石は戸棚の隙間、押し入れの中、カーテンの裏――思いつく限りの場所を調べ尽くした。
 何も見つからない。しかし、諦めて布団に潜り込んだあとも、その気配は消えることはなかった。
 やがて、大石は確信した。間違いない、自分は――。

「幽霊に取り憑かれたみたいなんだ……」

 一週間後の晩。居酒屋のテーブルを挟んで向かい合う友人に、大石はそう打ち明けた。
 友人は「はあ?」と言いかけ、言葉を飲み込んだ。目の下には濃い隈、頬はげっそりとこけ、顔色も悪い。冗談を言っているようには到底見えなかった。

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短編 2025/06/05 11:00更新
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最終取得日時:2025/07/09 12:08
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