ヒューマンドラマ[文芸]

寝言

 とある夜、駅舎から出た男は足を止め、ぐるりと周囲を見渡した。そして、スーツの袖を軽く押し上げ、腕時計に目を落とす。

 五時二分……あと三分か。
 いや、おれは何やってんだろうな。こんなことで早引けしてくるなんて。しかも課長に嫌味まで言われて……クソッ、あの野郎。思い出したら腹が立ってきた……。
 男は苛立ちながら、再び駅前の通りを見回した。
 そろそろだ。たしか、妻の寝言では――午後五時五分、駅前、赤い車、四十代男性、轢かれて死ぬ――だったはず……あっ!



「あら、あなた、おかえりなさい。今日は早かったのね」

 家に帰ると、妻がソファで伸びをしながら言った。男は視線を逸らし、もごもごと答える。

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短編 2025/06/11 11:00更新
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最終取得日時:2025/07/09 12:08
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