異世界[恋愛]

かわいいお姉さまを泣かせた王子に聖女の鉄槌を

(息が、苦しい……っ。どうしよう、笑わなきゃ、何か言わなきゃいけないのに……っ)

ドクン、ドクンと耳の奥で心臓が警鐘を鳴らしている。
喉が干からびたように張り付き、声の出し方を忘れてしまった。視線を上げれば、目の前に座るランドール王国第一王子オーデルの、値踏みするような冷たい目が突き刺さる。

「……まるで、精巧なだけの人形だな」

オーデルが、鼻で笑うように吐き捨てた。

「エスカマインの姫君は、挨拶ひとつ満足にできないのか? ずっと下を向いたまま、気味が悪いほど無表情で。我々を愚弄しているとしか思えんな」

ビクッ、とマイヤの肩が大きく跳ねる。
違う。愚弄なんてしていない。ただ、極度の緊張と恐怖で体が動かないのだ。
『ごめんなさい、私、人見知りで……』
たったそれだけの言葉が、舌に絡みついて出てこない。

「我がランドールの次期王妃となる女が口も利けないなど、欠陥品と言わざるを得ませんね」
「エスカマインも落ちたものだ。このような無愛想な女を押し付け、我が国と結ぼうなどと……厚かましいにも程がある」

国王夫妻の冷酷な言葉が、マイヤの心臓を鋭く抉る。

泣いてはいけない。せめて、凛としていなければ。
そう思うのに、視界がぐにゃりと歪み呼吸が浅くなっていく。

「こんな女、俺の隣には相応しくない! こちらから願い下げだ!」

オーデルが立ち上がり、虫けらでも見るような目でマイヤを見下ろした。

「マイヤ・エスカマイン! 貴様との婚約は、この場をもって破棄させてもらう! さっさとその陰気な顔を俺の視界から消せ!」

ガシャン、とオーデルがワイングラスを乱暴にテーブルに叩きつける。
その鋭い破裂音に、ついにマイヤの限界が訪れた。

「あ……ぅ……っ」

張り詰めていた糸が切れ、瞳から大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
何も言い返せない。ただ震えることしかできない自分自身が、情けなくて、ひたすらに悔しかった。

この日、氷の悪役令嬢と噂された不器用な少女の心は、無残に砕け散った。

──だが、オーデルたちはまだ知らない。
この涙一滴が、自らの国を滅亡の危機へと追いやる『最凶の聖女の逆鱗』に触れたということを。

AI直接使用 / ハッピーエンド / うっかり聖女 / 最強家族
全10話完結 2026/06/28 00:10更新
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最終取得日時:2026/06/29 12:06
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