異世界[恋愛]

『君の薬はもう要らない』と言って妻を遠ざけた夫は、彼女が千八百回の朝、自分を生かしていたことを知らなかった

伯爵家に嫁いで五年。セレーネは、心の臓を病む夫オーウェンのために、毎朝まだ暗いうちに起きて薬を煎じ続けた。匙の角度、湯の温度、煎じる拍数——夫の発作を遠ざけたのは、誰にも気づかれない、その地味な手仕事だった。けれど回復した夫は、若く快活な従妹に心を寄せ、「君の薬はもう要らない」と言って妻を遠ざける。セレーネは言い返さず、ただ静かに離縁を受け入れて去った。残された薬棚の引き出しには、千八百回ぶんの調薬記録が、几帳面な筆跡で綴られていた。彼女が消えた朝、屋敷の誰もその薬を煎じられないことに、オーウェンはようやく気づく。失われた手の重さに輪郭が見えるのは、いつも後になってから。

異世界転生 / すれ違い / 献身 / 切ない / 余韻 / もう遅い / 女主人公 / 令嬢 / 再会 / 恋愛 / ハッピーエンド
短編 2026/06/04 19:00更新
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最終取得日時:2026/09/22 12:11
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