空想科学[SF]

博士の願い

 とある研究所。博士は一人、ある研究に取り組んでいた。博士は元々は、アンドロイド開発の第一人者だった。今でもその卓越した頭脳は衰えていないが、彼の研究は無益で危険だとまで言われ、賛同者を得られずにいたのだ。
 だが、それも今日まで。ようやく報われる瞬間が訪れた。

『博士、今日は何をするのですか? わたし、楽しみです。……あれ、博士? どうされましたか?』

 黙って自分を見つめる博士に対し、アンドロイドは戸惑った。

「……ああ、いや、もう実験をする必要はないんだ。完成した……君は完成したのだ」

 博士はそう言って、目の前にあるアンドロイドを抱きしめた。すると、アンドロイドもそっと抱きしめ返した。その表情は目を細め、口角を上げて幸せそうに見えた。
 博士の研究とは、アンドロイドに人間の感情を持たせることであった。つまり、心を、そして魂を。
 博士の目的を知った周囲の科学者たちは眉をひそめた。高度な知能と知識を有する人工知能に人間の心など持たせ、それがもし悪に染まれば……。いや、性悪説というものがある。人間の心を持ったアンドロイド、それはもはや悪なのかもしれない。「悪魔を召喚する所業だ!」などと終末思想家ほか陰謀論者に詰め寄られたこともあった。
 しかし、博士の目的はまさにそれであった。そして、それこそ博士が周りの科学者たちから白い目で見られた理由でもあった。

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短編 2024/07/23 11:00更新
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最終取得日時:2025/07/09 12:25
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