ヒューマンドラマ[文芸]

一度、言われました。みっともないと思いました

 お姉様の婚約者と結婚いたします。

 そう申し上げたとき、お姉様は怒りませんでした。

 その翌朝、お姉様はわたしの部屋に来て、三つのことをおっしゃいました。

 あの家にお金がないこと。あの方に二歳のお子様がいらっしゃること。あの家の小切手を、もうどこの銀行も受け取らないこと。

 わたしは、お姉様が嘘をついていらっしゃるのだと思いました。悔しいのを隠していらっしゃるのだと思いました。

 だからお姉様のためを思って、こう申し上げたのです。

「そういうことを言うのは、みっともないと思う」

 三つとも、本当でした。

 わたしは伯爵家に嫁ぎ、屋敷を失い、爵位を失い、いまは名前を変えて市場の乾物屋で働いております。

 お姉様は三度おっしゃいました。わたしに。お義母様に。お父様に。三人へ一度ずつ。

 聞かなかったのは三人です。そのうちの一人が、わたしです。

 ――一年七か月後、量りの向こうに女の人が立っています。

 あの方のお子様を産んだ、マルタさんです。

  ※前作『三度申し上げました。誰も聞きませんでした』の義妹視点です。
   前作を読んでいなくてもお読みいただけます。

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短編 2026/08/27 20:05更新
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最終取得日時:2026/09/06 12:06
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