ヒューマンドラマ[文芸]

タバコの絵の少女

 年の瀬も押し迫った大晦日の夜、一人の男がタバコをくわえて街をぶらついていた。
 行き交う人々は慌ただしくも、どこか幸せそうな表情を浮かべて通り過ぎていく。その笑顔を見るたび、男は目を伏せた。煙たがられるのは慣れていたが、あの満ち足りた表情にはどうも耐えがたかった。
 びゅう、と冷たい風が吹き抜ける。男は肩を縮め、コートの襟で顔を覆った。すると、タバコが唇から滑り落ち、乾いた音を立てて地面に転がった。

「チッ……」

 舌打ちし、ポケットを探る。しかし、出てきたのは空っぽの箱。
 男はため息をつき、吐き出した白い息が冷たい夜空に溶けていくのを、恨めしそうに見つめた。

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短編 2025/04/24 11:00更新
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最終取得日時:2025/07/09 12:11
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