推しの氷結公爵に事務能力で雇われたので、今日も平静を装って尊死しています
【連載版 始めました】
前世は日本のOL、現世は貧乏伯爵家の令嬢――ノエル・ベルナードは、転生先が死ぬほどやり込んだ乙女ゲームの世界だと気づいたとき、戸惑いよりも歓喜が勝った。
ゲームのモブキャラとして安全圏に身を置きながら、前世の経理知識で家の借金返済に奮闘していたノエルに、ある日突然、運命が舞い降りる。
ゲームの最推しキャラ――銀髪の孤高の公爵、ライアス・ヴァルトハインが、ノエルの事務処理能力に目をつけ、「婚姻ではなく、仕事の力量を買いたい」と引き抜きを申し出てきたのだ。
借金は棒引き、おまけに推しと同じ屋根の下で働ける。断る理由が宇宙のどこにもなかった。
こうしてノエルは、ヴァルトハイン公爵邸で働き始める。
昼は有能な事務員として帳簿の山と格闘し、夜は「閣下観察日誌」に推しの生態を克明に記録する日々。歩幅の均一さも、眉間の縦皺も、紅茶のカップを持つ角度も、すべてが愛おしく尊かった。
一方のライアスは、ノエルの言動に戸惑うばかりだ。自発的に走る令嬢、馬の世話をする令嬢、筋力鍛錬をする令嬢。これまでの「令嬢」という概念が、ことごとく覆されていく。おまけにノエルの視線は、品定めでも計算でもない、正体不明の真剣な目だった。
甘いものとしょっぱいものを組み合わせたパンケーキとベーコンで公爵の食事に革命を起こし、業務改善で公爵家の財政に切り込み、気づけばライアスの心に小さな「引っかかり」を生み出していくノエル。
しかし本人はまったく気づいていない。自分が起こしているのが「推し活」ではなく「恋愛フラグ」だということに。
推しはあくまでゲームのキャラクター。憧れはあれど、現実の恋愛感情など微塵もない――そう思い込んだまま、今日もノエルは鼻血をハンカチで押さえながら、満面の笑みで廊下を走る。
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