婚約破棄された瞬間、私にかけられていた"国家封印"が解けました――今さら戻れと言われても、もう遅いです
王太子ディルクに婚約破棄を告げられたのは、華やかな舞踏会の夜だった。
「地味でつまらない。リゼットの方が華がある」
大勢の貴族が見守る中、クラリス・エヴァンスは静かにそれを受け入れた。三年間、婚約者として結界の点検も農業政策の補佐も黙々とこなしてきた。褒められることも、気づかれることもなく。それでも真面目に、ただ誠実に。
しかし婚約破棄の瞬間、クラリスの体の奥で何かが――ほどけた。
枯れていた花が翌朝には咲いていた。痩せていた領地の作物が、一夜にして異常な速度で育ち始めた。古い文書を調べたクラリスは、震える手で真実を知る。婚約という契約魔法には「封印」が仕込まれていた。王家が彼女の能力を独占するために。本人に知らせることなく、三年間ずっと。
彼女が持っていたのは「国家維持系スキル」――結界の安定、作物の豊穣、経済の流動。国の基盤そのものを支える、この世界でもっとも希少な力だった。
封印が解けると同時に、王都では異変が起き始める。結界が弱まり、収穫が落ち、市場から活気が消えた。全てがあの夜から始まっていると気づいた王太子は、今さら「王妃にしてやる」とクラリスを呼びつける。
しかしもう、遅い。
「あなたが捨てたのは地味な婚約者ではありません。国そのものです」
かつて怯えていたクラリスは、もういない。自分の価値を知った彼女は、静かに、そして完全に、王家への帰還を拒絶する。
そんな彼女に手を差し伸べたのは、隣国ガルネットの第二王子ルーファスだった。鋭い観察眼で彼女の真価を一瞬で見抜いた彼は言う。「あなた一人で、国が成り立つレベルだ」と。急かさず、縛らず、ただ対等に隣に立つ男。
私はようやく、本来の私として、生きていく――。
知らぬ間に縛られ、捨てられて、それでも立ち上がった一人の女性が、本当の自分を取り戻すまでの物語。
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