『悪役令嬢は職業でした。王家の不祥事を全部かぶってきた私が解雇されたので、今日から本当のことしか申しません』
公爵令嬢エレナ・ヴァルハイトは、王国一の「悪役令嬢」として嫌われていた。嫉妬深く、傲慢で、王太子に執着し、気に入らない令嬢を追い詰める最低の女――それが世間の知る彼女だった。
だが、その悪評のほとんどは嘘である。
王太子が外交で失言すればエレナの差し金、王女が浪費すればエレナがそそのかしたことにされ、王家に不祥事が起こるたび、彼女はすべての責任をかぶってきた。王家の威信を守るため、表向きの悪人となり、裏では謝罪、交渉、文書作成、貴族間の仲裁、外国との調整まで引き受ける秘密の役目――それが彼女の本当の仕事だった。
そんな生活を十年続けたある夜、王太子アレクシスは新たに愛する女性を得たとして、大勢の前でエレナとの婚約破棄を宣言する。さらに「もうお前は必要ない」と、その秘密の仕事からも解任した。
エレナは怒らなかった。泣きもしなかった。
ただ王宮の鍵を返し、静かに告げる。
「承知いたしました。それでは今日から、王家のために嘘をつくのもやめます」
その翌朝、王宮には外国から十二通の抗議文が届いた。
謝罪しなければならない相手、謝罪してはいけない相手。放置していい問題、今夜までに処理しなければ戦争になりかねない問題。そのすべてを把握していたのは、もう王宮にはいないエレナだけだった。
王家が次々と自らの失敗に直面する一方、自由になったエレナの前には、以前から彼女の能力を見抜いていた隣国の第二王子ルシアンが現れる。
「妃になれとは言わない。まず、私の国で働いてほしい」
悪女としてしか必要とされなかった令嬢が、初めて一人の人間として評価され、新しい人生を歩き始める。
そして王宮はようやく知ることになる。
自分たちが追い出したのは悪役令嬢ではない。
十年間、この国が崩れないよう支え続けていた最後の一人だったのだと。
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