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熾星 2026/08/18 公開 2026/08/18 15:41 更新
破水した日、家族は全員、実家に集まっていた。夏帆は大学を卒業するまで両親と暮らしていて、卒業式は午前中に行われる予定だった。母は朝早くから皆を呼び戻し、「せっかく家族がそろうんだから、出かける前に写真を撮りましょう」と張り切っていた。拓海はすでに就職し、汐岬市内の別の地区で一人暮らしをしていたが、その日は朝から実家に戻っていた。私と悠人は結婚後、実家から数駅離れた2LDKの賃貸マンションで二人で暮らしていた。
高梨家の実家は、築二十年あまりの二階建ての一戸建てだ。悠人と着いた頃から、私は下腹部がときどき張るのを感じていたが、出産予定日が近いせいだと思っていた。ところが間もなく破水し、ズボンが大きく濡れた。夏帆は卒業式用の袴に着替え終え、母が髪飾りを直している。少しの沈黙のあと、悠人が時計を見た。
「美咲、あと二時間だけ待てないか? 夏帆の卒業式、もうすぐ始まるんだ。終わったらすぐ病院に連れていくから」
兄の拓海は隣でスマートフォンを掲げていた。画面には、たった今検索したばかりのページが開かれている。数行の説明を読んだだけで、家族全員が安心して出かけるための理由を見つけたような顔をした。
「破水しても、すぐ陣痛が始まるとは限らないって書いてある。しばらくかかる人もいるみたいだし、二時間くらいなら大丈夫なんじゃないか?」
両親はすぐにうなずいた。
「じゃあ、そうしましょう。病院に行けばちゃんと診てもらえるんだし、夏帆の大学の卒業式は一度きりよ。美咲は昔からしっかりしてるんだから、もう少しだけ我慢して。今日くらい、夏帆に心残りを作らせないであげて」
私は痛みで立っているのもやっとだった。
「私と赤ちゃんの命より、夏帆の卒業式のほうが大事なの?」
母は眉をひそめた。
「またそんな大げさなことを言って。誰も放っておくなんて言ってないでしょう? 二時間待ってって言ってるだけよ。夏帆はずっと今日を楽しみにしてたの。お姉ちゃんなんだから、一度くらい妹のことを考えてあげられないの?」
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