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小石 勝介 2011/07/18 公開 2011/07/18 08:22 更新
「自分が幸福だったなんて気づきもしませんでした。不運なんてものは、前触れもなく突然やって来て、そんなことを教えてくれるんですね」少し落ち着いてから太兵衛の女房は誰に言うともなく呟いた。
何を斬っているのだろうか?
ふいにそんな疑問が駒吉の頭に浮かんだ。何故あの男の考えていることを覗こうとしたのだろうか。いや、覗こうとしたのではない。あの男の体が訴えているのだ。余りにも強い怒り、怨嗟、慨嘆が入り混じった目の光は底が無いほど暗かった。きっとあの男は、この世にある全てのものを斬ってしまいたいに違いない。
この世を怨んでいる。そして、自分自身さえも憎んでいる。
岡っ引きであった父親の後を継いだ文吉の前に、連続辻斬り犯があらわれる。辻斬りの目は世の中に対して、そして自分自身に憤りを感じている悲しい光を放っていた。文吉の幼馴染芸者の駒吉が自ら囮となって辻斬りを呼び寄せる。しかし、伯耆流抜刀術の使い手である吉川八左衛門の殺戮はだれにもとめられない。吉川八左衛門の前に立ったのは同じ長屋に住む手習い指南所の師匠、竹光を腰に差した数馬であった。
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