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花守かおるこ 2026/05/24 公開 2026/05/24 15:08 更新
静かな土を、少女は耕していた。
誰にも見向きされぬ、痩せた庭。
靴の裏についた泥を笑われながら、
それでも彼女は、土を捨てなかった。
「平民は泥でもすすっていろ」
その言葉は冬だった。
凍えるほど冷たく、
胸の奥へ刺さったまま抜けなかった。
破られた教科書。
焼かれた制服。
俯くしかなかった食堂の床。
笑い声だけが、高い天井に響いていた。
けれど。
涙が落ちた場所から、
世界は静かに芽吹いた。
雑草を抜き、
石をどけ、
水を引き、
土を撫でる。
愛された大地は応えるように広がった。
庭は丘となり、
丘は森となり、
森は果てなき神域となる。
そこには黄金の果実が実った。
炎を宿す葡萄。
命を湛える林檎。
神話の時代にしか存在しない、奇跡の恵み。
少女は素足で果実を踏む。
白い足首を濡らしながら、
黄金の雫は樽へ落ちる。
芳醇な香り。
光そのもののような液体。
それは神酒。
ネクタル。
死にかけた老人を蘇らせ、
老いた王に若さを与え、
世界の価値を塗り替えた。
やがて、かつて彼女を嗤った者たちが、
神域の門へ辿り着く。
誇りを失い、
財を失い、
膝を折り、
泥にまみれて。
玉座の少女は、静かに微笑む。
「あら――」
翡翠の瞳が細められる。
「泥をすする平民に、何か御用?」
かつて刃だった言葉は、
今は絶望となって返る。
誰かを踏みにじって得た栄華は滅び、
土を愛した少女だけが、
最後に世界を手に入れた。
神域は今日も広がり続ける。
もう、誰にも奪われない。
もう、誰にも嗤わせない。
泥の中で泣いていた少女は、
ついに神々の庭の主となったのだから。
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