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り(PN) 2022/08/09 公開 2022/08/13 08:04 更新
目を閉じれば風景が浮かぶ。
嘗てわたしが過ごしたあの家を中心に大写しとなる。
家はそこかしこが傷んでいたが、灼熱の太陽の耀きとジリジリと身を焦がす大地の熱気に負ける気配がまったくない。
朝宵の気温変化で板材がパキンと爆発するように鳴る毎日だったが、もちろん何処も壊れないし、変わらない。
ただ歳月が僅かずつ傷みを与えるだけだ。
耐えるのではなく慣れているのだろう。
自然の一部に同化するように……。
文明人のために建てられた自らの来歴を否定するかのように……。
一部の高山域以外では雪の降らない国。
代わりに雨季、スコールがある。
すべてを破壊し、押し流す強烈な雨の群れだが、現地の人間には風景の一部らしい。
あのときのわたしがもし観光客であったなら、同じ想いを共有できたかもしれない。
が、わたしは母に売られるように、あの国に嫁がされる。
もうずいぶん昔の話だが、思いだせば肌がヒリつく。
母がわたしを厄介払いしたかったのはわかるとして、何故あの国を選んだのか……。
わたしにはそれが計り知れない。
それに何故、あの男だったのかも……。
かつて良家の令嬢だった母には不必要な知識が数多くあり、また家の地位と連動した付き合い相手が幾つもあって、その中の一つとして浮かび上がってきたのかもしれないと想像する。
が、そうではないかもしれないと否定する。
単なる偶然かもしれない。
あるいは別の意味で偶々だったのかもしれない。
が、母が下した選択の結果は明白だ。
それで、わたしがあの国に売られる。
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