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黒咲かぐら 2026/11/04 公開 2026/11/04 07:00 更新
「その衣装箱を下ろせば、私も乗れます」
魔獣の襲来を告げる鐘が鳴る中、伯爵家の長女ティルゼは、避難する馬車へ乗せてほしいと頼んだ。
けれど、一人分の席を塞いでいたのは、妹の婚礼衣装だった。
「お前は次の馬車だ。使用人たちと来なさい」
父はそう言って扉を閉めた。
次の馬車など、一台も残っていなかった。
取り残された使用人たちと徒歩で逃げたティルゼは、救援隊の騎士ヴァレールに助けられる。
震える手にも、迎えが本当に来るのかと尋ねる声にも、彼は一つずつ応えてくれた。
やがて届いた家族からの手紙には、「家族は一緒にいるべきです」と書かれていた。
けれど、ティルゼはもう、あの家へ帰るとは言えなかった。
家族が連れ去った馬は、領民の避難にも使われるはずのものだった。
調査によって明らかになる、あの日の判断と責任。
そして、叔母の家で少しずつ取り戻す日常と、会う日が待ち遠しくなる恋。
これは、家族の馬車に席がなかった令嬢が、自分の居場所と幸せを選ぶ物語。
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