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雉白書屋 2026/10/28 公開 2026/10/28 11:00 更新
ある日の夕暮れ時、とある古びた商業ビルの七階。テナントが並ぶフロアを抜けた先の廊下には、窓の向こうから差し込む夕陽が床に橙色の四角い光を等間隔に落としていた。天井の電灯はまだ点いておらず、壁際や廊下の隅では影がじわじわと濃くなり始めている。営業を終えた店舗もちらほらと見られ、フロア全体が閑散としていた。
窓の外には紫がかった空が広がり、一日の幕を静かに下ろそうとしているかのような雰囲気。街の喧騒もこの階に届く頃には弱まり、天井のスピーカーから流れる『蛍の光』が静かな廊下によく響いている。穏やかな旋律でありながら、どこか人を追い立てるようなせわしなさがあった。
その廊下の一角で、老人がひとりエレベーターの前に立ち、扉が開くのを待っていた。
杖を床に突き立て、わずかに体重を預けていたが、鈍い光を返す硬質な床は、力をかける角度を誤れば杖の先がずるりと滑りかねず、肩に妙に力が入っていた。
階数表示を見上げていると首が痛くなるため、老人は閉ざされた扉をただじっと見つめていた。
呼び出しボタンはすでに押してあるが――念のため二回――、本当にやってきているのか疑わしい。ちらりと視線を落とすと、ボタンの透明なカバーにはひびが入っていたが、橙色のランプが点灯しているので、一応動いてはいるらしい。
そろそろ来てもいい頃だろう。そう思い、老人が扉の上にある階数表示を確かめようとした、そのときであった。
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