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泥沼之羊 座金 2026/11/03 公開 2026/11/03 19:00 更新
娘の曲を、明日は最初から一緒に聴こう。
そう決めた翌朝、45歳の技術者・平野恒一が目を覚ましたのは、2009年の実家だった。身体は17歳。高専に通ってロボットを作ろうとしていたあの部屋に戻っている。
だが、そこは記憶にある平成の日本ではなかった。
朝のニュースは天気予報と一緒に怪異の警戒数値を知らせてくる。道路には〈変生獣に注意〉の標識が立ち、ホームセンターでは結界器が売られ、腰に刀を差した警察官がいる。
元の世界では妖怪や不可思議な現象だったものが、科学や技術とともに日常に溶け込んでいる。周囲の誰もがそれを当たり前だと思っているのに、恒一だけが何も知らない。
昔の友人たちは変わらぬ顔で迎えてくれる。しかし、彼らが知る「昨日までの恒一」を、恒一自身は覚えていなかった。
高専の仲間たちと、怪異を観測し、怪異を観測する機械を作り、少しずつこの世界を知っていく恒一。だが、確かなことが増えるほど、新しい疑問も生まれていく。
なぜ、この世界に来たのか。ここにいたはずの17歳の自分はどこへ行ったのか。そして、妻と娘のいる2037年に帰ることはできるのか。
欲しいのは、二度目の青春ではない。
娘と向き合うはずだった、あの明日の続きだ。
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