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熾星 2026/11/03 公開 2026/11/03 16:35 更新
両家の顔合わせを兼ねた食事会まで、あと二日。私は椿森市の老舗旅館、花乃井を訪れ、個室の設営や料理の最終確認をしていた。支配人から渡された席次表には、両家の両親や兄弟姉妹、親戚の名前がずらりと並んでいる。家族同然に可愛がられているラブラドールのために、休憩スペースまで用意されていた。
ところが、何度見直しても、婚約者である私の名前が見つからない。
「私の席は、どこにあるの?」
隣にいた岩瀬圭介は、席次表をちらりと見て答えた。
「千紘は人の世話をするのが得意だろ。料理を運ぶのを手伝ってくれればいいよ。そのほうがみんな助かるし」
向かいに座っていた小宮山紗良が、悪気のない顔で笑った。
「千紘、料理を運ぶのもいいじゃない。出てくる料理を先に味見できるし。圭介くんに信頼されてるってことだよ。私もちょっと羨ましいな」
私は席次表を見つめたまま、言葉を失った。
この食事会のために、何日もかけて店を予約し、献立を確認し、細かな手配を進めてきた。両家の好みを調べ、苦手な食材を避け、年配の親戚が過ごしやすい席まで考えた。それなのに、圭介には私が座って食事をするという発想さえなかったらしい。
彼は私の反応を気にする様子もなく、紗良と食事のあとに月を眺める場所を相談し始めた。
私は席次表を畳んだ。
「わかったわ」
圭介は、私が納得したと思ったらしい。
「そうだよ。千紘ならわかってくれると思った。じゃあ、明日の最終確認も頼むな」
私は返事をせず、旅館を出た。
マンションに戻ると、予約サイトを開き、花乃井の個室のキャンセル手続きに進んだ。
私の席を用意するつもりがないのなら、この食事会を続ける理由もなかった。
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