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織 航(しき わたる) 2026/06/02 公開 2026/07/19 19:00 更新
勇者は、英雄ではなかった。
魔王に喰わせるための器だった。
魔王の核を内側から焼くために作られた、人類の希望という名の毒だった。
六月初旬の朝。高校生の僕は、通学中のバスで同じクラスの川上あやが助けを求めていることに気づいた。
けれど、怖くて動けなかった。
見ないふりをした翌朝、僕は同じバスに乗ることすらできず、学校からも逃げた。雨の神社で命を落としかけた僕の前に現れたのは、白衣の女アニエスだった。
「ようこそ、勇者リュシアン」
目を覚ました僕は、魔王と魔物に脅かされる異世界で、人類の希望と呼ばれる不滅の勇者リュシアンの身体に魂を移されていた。
だが、勇者リュシアンは魔王を倒す英雄ではない。
光の精霊で作られた身体。
何度壊れても戻る器。
魔王に喰われることで、核を内側から焼くための存在。
剣も、外套も、勇者という名も、すべては器を魔王の前まで運ぶためのものだった。
戦う力もない。
勇気もない。
死にたくない。
それでも僕は、光の院で出会った病の少年フィルと、その姉カテリーナの姿を通して知っていく。
強いから立てるのではない。
怖いままでも、誰かの前に立つことはできる。
これは、現代日本で逃げた少年が、異世界で勇者の器にされ、やがて自分の意思で光を灯すまでの物語。
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