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熾星 2026/08/25 公開 2026/08/25 16:45 更新
妻の神谷美咲が経営する会社に、二十二歳の大学生インターンが入ってきた。
三浦悠斗。大学四年生で、卒業を控えた長期インターンだった。入ってまだ一か月も経たないうちに、美咲は「プロジェクト用の社用車」という名目で、彼にメルセデス・マイバッハを与えた。
その一方で、俺が半年かけてチームを率い、澄浜市最大級の複合商業施設案件を受注したことで支給されるはずだった三千万円の成功報酬は、一円も振り込まれていなかった。
美咲に確認すると、返ってきたのはあっさりした答えだった。
「今、会社の資金繰りがちょっと厳しいの」
「あなたの報酬は少し待って。ゲートスクエアの入金があればすぐ払うから」
そして、当然のように続けた。
「私たち、もう何年夫婦やってると思ってるの? そこまできっちり分けなくてもいいでしょう?」
その日の午後、経理に立ち寄った俺は、一枚の支払申請書を見つけた。
金額は三千万円。
メルセデス・マイバッハの購入費用。
使用者は三浦悠斗。
承認者は神谷美咲。
俺はその書類を持って社長室へ向かった。
悠斗は美咲のデスクの脇に立ち、楽しそうに話していた。俺が書類を置くと、先に笑ったのは悠斗だった。
「佐伯さん、まさか社用車一台で怒ってるんですか?」
「そんなに気にすることです?」
俺は美咲を見た。
彼女は眉を寄せただけだった。
「直人、細かいことで騒がないで」
その瞬間、言い争う気がなくなった。
八年間、俺はこの会社で数え切れないほどの後始末をしてきた。
なら、一度くらい見てみてもいい。
俺が手を離したあと、美咲と彼女が選んだ新しい責任者だけで、この会社がどこまでやれるのか。
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