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える・あーる 2026/10/24 公開 2026/10/24 10:16 更新
前世で読んだ恋愛小説の世界に、伯爵夫人の赤ちゃんとして転生した私。
小説の冒頭で、私のお母様は「夫と子供を捨てて、愛人と駆け落ちした悪女」と呼ばれていた。物語は、妻に去られたあと幼い次女まで失った可哀想な伯爵が、健気なヒロインと出会って新しい恋を見つけるというものだ。
……待って。その亡くなる次女って、私では?
けれど、赤ちゃんとして毎日お世話になってみると、話がぜんぜん違う。
お母様は、私が少しでもぐずればすぐに駆けつけて抱き上げてくれるし、おむつを替える手つきは綿毛みたいに優しい。五歳になるお姉様が今日見つけたお花やリボンの話をすれば、どんなに忙しくても膝をついて最後まで聞いてくれる。ミルクの匂いと、お母様の柔らかい胸の温もり。どこをどう見ても、私たちを捨てるような人には見えないのだ。
むしろおかしいのは、ハンサムなはずのお父様の方だった。家のことはお母様に任せきりで、お母様が真面目に相談しても「君は大げさなんだ」と笑って取り合わない。
そんなある日、お母様が部屋の奥で大きな鞄を広げ、荷物をまとめ始めた。
小説に書かれていた「出奔の日」が、もうすぐそこまで迫っている。
「捨てられるくらいなら、私も駆け落ちします!」
そう決意したものの、悲しいかな、今の私はよだれかけをつけた赤ちゃんである。言葉でお願いすることはできない。
それに何より、死にたくない! せっかくの異世界転生、はいはいだけで人生終了なんてお断りだ。大好きなお母様と離れたくない。お姉様と一緒に、今度こそ元気に大きくなりたい。私はぷくぷくの短い手足を必死に動かし、鞄に向かってはいはいし、スカートの裾をぎゅっと握りしめる。
ただの甘えん坊にしか見えないこの抵抗が、私たちの運命を変えるとも知らずに――。
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