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六九式 2026/08/19 公開 2026/10/28 15:00 更新
黒光りする牢獄塔は恐れられていた。
八階建ての堅固な石壁のなかでは、極悪非道の殺人犯、禁忌を犯した魔術師、公爵家に対する謀反人などが鉄の鎖につながれており、いずれ死霊術の実験材料にされるのだ――と市民たちに噂されている。
この百年間、脱獄を試みて成功した者はいない。
それが、ある年の夏、牢獄塔の百人ちかい囚人が一斉にいなくなるという事件が起きた。その後、ある者は再び捕らえられ、ある者は殺されたが、半数以上の囚人が無事に逃げおおせたという。
この事件を、裏で手引きしたと噂された者がいた。
伯爵家の嫡男イオアンである。
エルフの一族のなかでも変わり者として有名だった。
美しいエルフの一族に生まれながら、黒い肌をした彼は、呪われているとも囁かれており、子供の頃から病弱で、いつもベッドで本を読んでは、窓の外を眺めているような若者だった。
そんな影の薄いイオアンが、なぜ囚人の脱獄などに手を貸したのか?
ひそひそと市民たちは噂しあった。
その謎が解き明かされることはなかったが、
彼が支払った代償の大きさだけは、誰の目にも明らかだった。
このイオアンによる、帝国の大都市イグマスを揺るがせた大事件の始まりは、不穏な二人組の訪問だったと言われている。
それは〈死者の日〉のパレードから、わずか四日前のことだった――。
※ 第一巻を読まなくても楽しめます。
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