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灯屋 いと 2026/04/19 公開 2026/04/25 05:47 更新
元公安の堂島嶺が営む個人事務所で、氷室朔は情報分析を担当している。朔は十三の頃に嶺に引き取られ、以来五年、嶺の作る食事を食べ、嶺に叱られ、嶺の手のひらに頭を撫でられて生きてきた。朔にとって嶺は世界の全てだった。
朔には共感性がない。人の死に何も感じない。ただ、嶺の周囲に現れる脅威だけは放置できなかった。嶺を旧い世界に引き戻そうとする人間を、朔はキーボードひとつで消していく。物理的に手を汚すことは一度もない。処理が完了すれば、殺した相手の名前すら記憶から消える。
嶺が「最近、俺の周りで人が死にすぎる」と呟くたびに、朔は「偶然じゃない?」と嘘をつく。嶺はその嘘を信じた。信じたかったから。
殺すたびに、朔の手は見えない血に汚れていく。きれいな手だったら嶺に触れられるのに。その願いを言葉にできないまま、朔は七人を殺した。
嶺の手のひらはいつも温かかった。その温かさに触れる資格が、自分にあるのかどうか。朔はまだ、その答えを知らない。
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