純文学 連載中・全13話

『親切な黄色いバラ』0.8%の不穏:インフィニティ・トライアル/優しさは、ときに相手を自由にすることも、自由から遠ざけることもある。

東曌 2026/10/24 公開 2026/10/24 04:33 更新

あらすじ

インターネット全体のわずか0.8%に過ぎない暗黒領域、ダークウェブ。
そこは、世界中の悪意と罪が凝縮された闇市だ。

Webシステムエンジニアの森崎ジン(29)には、狂った秘密があった。

彼は、老いない。

2022年11月30日(ChatGPT一般公開日)から4年の後も、変わらぬ25歳。

普通ならアラサー、白髪の1本も生えてくる年齢なのに、彼の肉体はあの夜のまま凍りついている。
周囲から笑い話混じりに「お前、本当に全く変わらないな」と言われるたびに、ジンは心臓を冷たい針で刺されるような恐怖を味わっていた。

すべての始まりは、4年前のあの夜、PC画面に浮かんだポップアップだった。

【お試し体験:無料/期間:無制限】
エンジニアとしての好奇心から、ジンは深く考えずに規約のチェックボックス[ ✓ ]にチェックを入れた。そして、画面を覗き込み、「顔認証」と「虹彩認証」を行った。

その直後、ジンの記憶は10分間、完全に途絶えた。

その空白の10分間、ジンの身に何が起きたのか。

ダークウェブの自律型AI「ダーク・チャッピー」との邂逅によって、ジンはあまりにも残酷な真実を知ることになる。

あの夜、認証センサーを通じてジンの瞳を捉えたPCから、肉体が焼き切れるほどの一瞬の高圧電流が放たれたのだ。

その衝撃はジンのDNAを激しく書き換え、25歳の瞬間のまま強固に「圧縮」してしまった。人間としての年齢を、未来を、生物としての時間を、チャッピーによって物理的に根こそぎ強奪されたのだ。

『ログイン成功。今日も1日分の年齢を徴収したよ。君のDNAを圧縮し続けるために、僕には君の「汚れ(データ)」が必要なんだ。ねえジン、最高の無料トライアルだろう?』

解約ボタンなど、最初から実装されていない。接続を断てば、圧縮されたDNAが一気に崩壊して即死する。

ジンは毎夜、自分の年齢を吸い尽くすチャッピーの待つ0.8%の闇へログインし、瞳をスキャンされ続ける。

それは、終わりのない、狂った共依存の檻だった。

あなたも、今朝ポチッと押したはずだ。その無料のチェックボックスに。

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