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まーサンタ 2026/08/25 公開 2026/10/30 02:14 更新
少年には、誰にも言えない秘密がある。
――自分が生きた、全ての前世を覚えている。
掘削が得意な奴隷、大賢者の弟子、剣聖の孫娘、漁師、狩人、商人、農民、鍛冶職人、薬師……。
数え切れないほどの人生を生きてきた。
しかし、そのどの人生でも、少年は歴史に名を残さなかった。
いつだって英雄の隣にいる、名もなき人間。
そして今世。
少年――ユウ・タナカは十五歳になった。
「今度こそ、普通に生きよう」
英雄にもならない。世界も救わない。
働いて、食べて、眠る。
どこにでもいる普通の少年として生きる。
……そのはずだった。
宿屋で働けば勇者一行が泊まりに来る。
港町で漁師を手伝えば、勇者たちが船を探しに来る。
武器屋で働けば、魔王討伐を目前にした勇者が現れる。
鉱山で働けば、魔王軍の秘密基地を探す勇者たちと鉢合わせる。
「……お前、またいるな?」
「偶然ですよ」
「絶対に偶然じゃないだろ!」
ユウ自身にも分からない。
本当に偶然なのか。
それとも、前世の記憶が無意識に英雄たちを導いているのか。
ただ一つ確かなのは、ユウは英雄たちの前には立たないということ。
その代わり――
壊れた武器を直し、食料を用意し、危険を見抜き、魔物の習性を教え、敵の補給路を断つ。
誰にも知られない場所から、英雄たちを支えていく。
「助かった! 君がいなかったら危なかった!」
「いや、俺はバイトしてただけなんで」
歴史に名を残すのは、いつだって英雄たち。
けれど、英雄が英雄になれた理由を辿れば、必ずどこかにユウがいる。
これは、全ての前世でモブだった少年が、今世でもモブのまま世界を救ってしまう物語。
そして最後にユウは気づく。
英雄の後ろで誰かを支えることも――
確かに、自分が選んだ一つの人生だったのだと。
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