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花守かおるこ 2026/06/08 公開 2026/06/08 11:40 更新
十年という時間は、長い。
けれど恋をしている人間にとっては、驚くほど短い。
子どもの頃から隣にいて、
泣いた日も、
笑った日も、
夢を語った日も知っていた。
だから信じていた。
「いつか」
その言葉を。
明確な約束ではなくても、
指先に触れる優しさを。
二人の未来を語る声を。
隣にいることが当たり前だという空気を。
信じていた。
だから働いた。
夜遅くまで帳簿をつけた。
休日も工場へ通った。
数字を整え、
資金を繋ぎ、
会社を支えた。
好きだったから。
ただ、それだけだった。
けれどある日、
その十年はたった一言で切り捨てられる。
「地味だな」
笑いながら言われた。
「もうお前はいらない」
みんなの前で言われた。
積み重ねた日々は、
紙くずより軽かった。
愛情は無価値だった。
献身は当然だった。
そんなことを知った。
だから私は去った。
泣きながらではない。
怒りながらでもない。
ただ静かに。
数字を残して。
契約を残して。
事実を残して。
そして初めて知るのだ。
支えていた柱を失った家が、
どれほど脆いのかを。
感謝を忘れた人間が、
どれほど愚かなのかを。
三か月後。
会社は崩れた。
恋も崩れた。
人生も崩れた。
けれど私は振り返らない。
あの日失ったのは、
幼馴染ではない。
私を都合よく使う人だった。
だから前を向く。
十年の後悔ではなく、
これからの人生のために。
初夏の風が吹く。
新しい季節の匂いがする。
ようやく私は知った。
誰かに選ばれるのを待つよりも、
自分で歩き出した方が、
ずっと自由なのだと。
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