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天城玄 2026/05/22 公開 2026/05/22 20:49 更新
『まだ、なかにいる』
孤独な人間が、消えていく。
第四橋の下で発見された男の遺体。外傷なし。死因不明。ただ——両手が揃えられ、口角がわずかに上がっていた。まるで何かに「見つけてもらえた」ような顔で、死んでいた。
刑事・真壁恒一は、その顔が頭から離れない。
調べるほどに、同じ顔をした遺体が続く。孤独な人間に近づき、「声を届け」、最後の夜だけ「会いに行く」——児童心理士・九条玲司の影が浮かぶ。
でも、証拠がない。
「声を届けただけです」「話を聞いただけです」。九条は穏やかに言う。何をしたかは——書かない。書かれていないことは、証拠にならない。
追いかけるほどに、真壁は引き込まれていく。
六年前、妻が死んだ夜。「まだなかにいる」という言葉を残して。その言葉が——この事件の全てと繋がっていた。
取調室で、九条は静かに言う。「私とあなたは、似ています」。
九条は知っていた。真壁の「なか」に——自分と同じ匂いがあることを。
「まだなかにいる」は恐怖の言葉か。救済の言葉か。それとも——告白か。
証拠は揃わない。九条は捕まらない。でも物語は終わらない。
なぜなら——この言葉は、読んだ者の「なか」にも入り込むから。
本を閉じた後。静かな夜に。一人でいるとき。
ふと——後ろが気になったなら。
それです。
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