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ころもぐら 2026/10/23 公開 2026/10/30 20:10 更新
「セシル。君との婚約は、今日限りで解消する」
王太子の婚約者として七年間、王宮を支えてきた伯爵令嬢セシル・アーデンは、突然の婚約破棄を告げられた。
王太子には新たに愛する女性ができたという。
悲しくないわけではない。けれど、もう自分を必要としない人のために働き続けるつもりもなかった。
「承知いたしました。それでは、王宮のお仕事もすべてお返しいたします」
王太子は笑った。
「構わない。君がいなくとも王宮は回る」
セシルも、そう願っている。
だからこそ十四日間をかけて、これまでの業務記録を整理し、後任者に仕事を教え、責任の所在まで明確にすることにした。
ただ、引き継ぎ資料が三十二冊にもなっただけで。
王宮の人々はそこで初めて、彼女がどれほど多くの仕事を支えていたのか知ることになる。
一方、無事に仕事を返却したセシルは、隣国の公益財団の採用試験を受け、新しい人生を歩み始める。
そこで再会したのは、王宮での引き継ぎを見守っていた外交文官ルシアンだった。
仕事に厳しく、少し意地悪で、決して甘い言葉ばかりをくれるわけではない男性。
けれど彼は、セシルが仕事で失敗しても、失敗したことだけで彼女の価値を決めようとはしなかった。
「あなたは、もっと自分のために時間を使ってもいいんですよ」
そんなふうに言われたのは、生まれて初めてだった。
婚約破棄から始まる新しい仕事。少しずつ変わっていく人間関係。そして、不器用な二人の恋。
これは、誰かのために生きてきた令嬢が、ようやく自分の幸せを選ぶ物語。
なお、王宮のお仕事はすべて返却済みですので、今さら戻ってほしいと言われてもお断りします。
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