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四方 闇 2026/10/06 公開 2026/10/15 19:00 更新
「私、あんたのこと、ずっと嫌いだった」
十年前の夏、僕は灯にそう言われた。
高校最後の夏休み。
海辺の小さな町で育った僕と灯は、いつも一緒だった。
東京の大学への推薦が決まった僕に、灯は突然「東京へ行け」と言った。
二週間ぶりに返ってきたメッセージ。
左手に巻かれた不自然な包帯。
知らない男の車。
そして、何かを隠しているような、灯の目。
問い詰めても、灯は何も答えなかった。
最後に僕へ残した言葉は、
「ずっと嫌いだった」
だった。
その日を境に、灯は僕の前から消えた。
僕は東京へ行き、故郷を離れた。
灯のことを忘れようとした。
忘れたつもりだった。
十年後。
父の葬儀のため故郷へ戻った僕は、実家の郵便受けに一通の手紙を見つける。
差出人は、灯。
十年前の日付が記された、古い手紙だった。
なぜ、今まで届かなかったのか。
なぜ灯は、あの夏に僕を突き放したのか。
封を開けることができないまま、僕は灯を知る人たちを訪ね始める。
すると、十年前の夏、町で起きたある出来事が少しずつ浮かび上がってくる。
僕が知らなかった事故。
灯が隠していた秘密。
そして、灯が最後まで守ろうとしていた「ある人」の存在。
記憶の中の灯は、僕を嫌っていた。
けれど、手紙に残されていた言葉は、その記憶とはまったく違っていた。
――手紙は、切手を貼ってこそ手紙なんだよ。
一度、誰かの手を離れた言葉は、もう自分の思い通りには届かない。
十年前、灯が僕に嘘をついた理由を知ったとき、
僕は初めて気づく。
あの夏、僕が失ったと思っていたものは、
本当は灯が命を懸けて守ろうとしていたものだったのだと。
そして最後に僕が読むことになる一通の手紙には、
十年間、誰にも言えなかった灯の本当の気持ちが綴られていた。
それは、愛している人に嫌われることでしか守れなかった、
ひとりの少女の最後の嘘だった。
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