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Dee 2026/10/23 公開 2026/10/23 14:01 更新
「私と結婚してほしい」
婚礼の翌朝。朝食の盆を運んできた私の前で、冷酷公爵と名高い旦那様が、花束を抱えて片膝をついていた。
「昨日いたしました。お忘れですか?」
父の借金のかたに、六十の商人へ嫁がされるところだった私。その借金を払って、一年限りの契約結婚を持ちかけてきたのが、この方だ。
私が望んだのは、落ち着いて暮らせる家と、互いを尊重してくださる相手だけ。
恋まで用意していただくつもりは、なかった。
ところが旦那様は、議会では誰も逆らえないのに、私に「求婚は恋人になってからです」と言われると、真顔でうなずいた。
「では、友人から頼む」
翌朝は花束。その翌朝は朝食の席。毎朝求婚しては振られ、代わりに小さな約束を一つ持ち帰っていく旦那様の横で、老執事は帳面に今朝のお断りを書き足していく。
「契約の妻に、この家の何がわかるのです。一年、飾り物でいなさい」
叔母様のおっしゃるとおり、私は人の好みなら一度で覚えるのに、自分の好みだけは言えずに生きてきた。
けれど旦那様は毎朝、その私に訊く。「それで、君は?」
ただ一つ気になるのは、旦那様がときどき、私の知らない昔話をしかけては、口をつぐむこと。
冷酷公爵が妻にだけ毎朝振られ続ける、結婚してから始まる初恋の物語。
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