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uta 2026/10/11 公開 2026/10/11 20:00 更新
「書類ばかり触っている女に、竜の花嫁は務まらん。婚約は破棄だ」
王都大聖堂で、婚約者のギルバート様からそう告げられたリーゼロッテ・ヴェンツェルは、深く礼をして竜堂の鍵を返しました。十二年間、毎朝欠かさず握り続けた、錆びた鉄の鍵を。
聖女候補のリリエル様は「竜様はわたしがお慰めします」と微笑み、貴族たちは「帳面など誰がつけても同じだ」と嘲笑います。
——けれど、誰も気づいておりません。
わたくしがお返ししたのは「竜堂」の鍵であり、本物の「竜廟」の扉には、そもそも鍵穴がないということに。
前世は損害保険会社の契約管理課係長。魔法の才能も剣の腕も女神の祝福もなく、引き継いだのは「約款を最後の一文まで読む」という職業病だけ。けれどこの国では、それで十分でした。
追放され、徒歩で領地へ向かうリーゼロッテ。やがて彼女は、千年眠り続けていた守護竜を目覚めさせることになります。手にした帳面には、几帳面に記録された数字がひとつ。
——契約書によれば、未払いの守護料は三百十二年分。
お支払いは、本日中でよろしいですね?
声を荒らげず、泣きもせず、ただ淡々と契約条項を読み上げる。追放令嬢の、静かで痛快な取り立てが始まります。
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