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uta 2026/10/11 公開 2026/10/11 19:00 更新
「聖女失格だ、セレスティア。月を読むしか能のない女に、神聖な儀式は任せられない」
大聖堂の月光広間で、王太子レオンハルト殿下はそう告げました。隣には天に手をかざし、奇跡を起こしたとされる男爵令嬢ミリアム様。――けれど、天門が開いたのは今夜ではなく、三日前の夜。わたくしの予報表に、四年前から記されていたあの夜です。
わたくしは何も申しませんでした。十二年、そうしてきましたので。
天門は祈りでは開きません。月齢、南中高度、雲量、霧、湿度――それらが噛み合う、年に数えるほどの夜にしか開かない。その夜を割り出し、「開く夜に聖女を立たせていた」のが、月読みの仕事でした。祈りも白衣も荘厳な鐘も、すべて演出。本体は、手書きの表一枚だけ。
前世は気象台の観測官。台風が逸れれば「何も起きなかった」と言われ、外れれば叱られる。守られている人間は、守っている手に気づかない。そういうものだと、三十四年と十二年かけて学びました。
ですから深く礼をして、引き継ぎ書を置いていきます。たった一行。
〈次の開錠窓:不明。祈りによってお開けください〉
嘘は一つもございません。――なにしろ次に門が開くのは、二年と八ヶ月後ですので。
三千二百十四夜分の観測原簿を「焚きつけにしろ」と言われたその瞬間、わたくしの睫毛が十二年ぶりに震えました。では、もう代わりに空を見てさしあげるのは、やめます。
淡々と、粛々と。数字だけを味方に生きる元聖女の、静かで痛快な追放劇。失われた記録の価値に、彼らが気づくのはいつでしょうか。
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