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uta 2026/10/10 公開 2026/10/10 20:00 更新
「鐘など、撞けば鳴る。誰にでもできる仕事だろう」
建国祭前夜、王太子アルベルトはそう言い放ち、セレスティア・ヴァンローとの婚約を破棄、十二年務めた鐘守りの任を解きました。代わりに選ばれたのは「大鐘から歴代王の声が聞こえる」と語る自称・聖女のミレーユ嬢。
セレスティアは深く一礼し、素直に鍵束をお返しします。
――ただし、お返ししたのは鍵だけ。
《歴代王三十七人の名を、正しい発音で、正しい順序で呼ぶ手順》は、引き継いでおりません。誰にも訊かれませんでしたので。
前世は日本の地方自治体・設備管理課。橋も下水も消火設備も「誰にでもできる」と言われ続け、そして全部「やめた瞬間に人が死ぬやつ」だと知っている彼女は、魔力量が平民以下でも、ただ毎朝、三十七人の名を呼び続けてきました。食いしん坊の初代、人見知りの第七代、歌の下手な第三十一代――王たちの魂は、すっかり彼女に懐いています。
鐘体には亀裂が三箇所。撞木の繊維には疲労の兆候。提出した報告書は百三十一通、すべて未開封のまま書庫に積まれています。
そして、建国祭は明日。
これは、追放された保守点検令嬢が、誰にも見えない仕事の重みを、国中に「鳴らして」みせる物語。
撞かない鐘は、ただの鉄屑ですよ?
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