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uta 2026/10/09 公開 2026/10/09 20:00 更新
「お前の署名など、羽根一枚の値打ちもない」
王城大広間、三百人の前で王太子に婚約を破棄された公爵令嬢リゼット・アルノー。十二年間、聖務書記官として一枚も書き損じることなく国の誓約書を支え続けてきた彼女は、ただ静かに膝を折り――破棄の日付と場所、証人の確認を取った。
「記録の問題でございます。お気になさらず」
前世は中堅商社の法務部で八年働き、過労死した社畜。彼女は知っている。『誰にでもできる仕事』と言う人ほど、その仕事を一度もやったことがないことを。
騎士団の支払命令書、冒険者ギルドの魔物討伐契約、領地間の水利権、そして王太子の正統性担保誓約――十二年分、三千百二十四件。そのすべてに、天使の羽根による封印と、彼女の署名が入っている。
署名に価値がないと仰るのなら。では、全部解除させていただきますね?
一枚、また一枚と封が解けるたび、王国の屋台骨が音を立てて軋んでいく。羽根一枚の値打ちもないと言われた書類が、この国の何を支えていたのか――彼らはこれから、たっぷり思い知ることになる。
「うちの娘は十二年、一枚も書き損じておりません。――殿下は、何枚お書きになりました?」
無表情な書記官令嬢と、やる気のない天使セラフィ。淡々と、丁寧に、法と記録で殴り返す逆襲ざまぁ譚。
そしてやがて彼女は見つける。八歳の自分が署名した、記憶にない誓約書を。
「それ、おれが封じたやつじゃない」
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