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uta 2026/10/08 公開 2026/10/08 19:00 更新
「リエル・アッシュフィールド。本日をもって、聖女の任を解く」
三百年燃え続けていると言われる《永久祭壇火》。その火が絶えなかったのは、奇跡でも神の加護でもございません。聖女リエルが十二年間、毎晩午前三時に床下へ潜り、灰を掻き出し、薪の湿りを確かめ、ただ黙々と火を守り続けていたからでございます。
前世は火力発電所の保守点検員・灰原理恵、三十四歳。定期点検中の事故で命を落とし、転生した先で与えられた技能はたった一行――《燃焼管理》。攻撃魔法も回復魔法もなく、ただ火を絶やさぬためだけの力。
「お前の祈りには華がない」
王太子にそう告げられ、新しい聖女に役目を譲ることになったリエルは、泣きもせず頭を下げます。提出し続けた十二年分、三千二百八十九冊の報告書に、返事は一度もございませんでした。深夜勤務という言葉すら、誰も知らなかったのです。
「かしこまりました。では、本日の深夜勤務をもちまして、退かせていただきます」
設備は、返却いたします。手順書どおりに。
火は正直です。燃料と、空気と、火種。この三つが揃えば、神様がいなくても燃えてくださいます。――けれど、誰も手入れをしなくなった火は、どうなるのでしょうか。
誰にも褒められない仕事を、誰よりも真面目に続けてきた聖女の、静かな退職物語。煤まみれの手に残る火傷の痕と、無味乾燥な記録簿の一行一行に、ほんとうの奇跡が宿っています。
そして、古い記録簿に書き加えられていた見知らぬ一行が、彼女を次の現場へと導きます。
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