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uta 2026/10/07 公開 2026/10/07 19:00 更新
「竜の骨を磨くしか能のない女を、王妃の座に置くわけにはいかない」
建国祭の大広間。王太子殿下は聖女候補の男爵令嬢を腕に抱き、高らかに婚約破棄を宣言なさいました。
――はいはい。十二年間の無償労働、契約解除ですね。承知いたしました。引き継ぎ資料は毎年ご提出済みですので、どうぞご確認くださいませ。あ。未開封でしたっけ。
わたくしヴェルナ・ドラグホルム、十九歳。王国の象徴『竜骨の王座』を守る竜墓守り伯爵家の長女でございます。そして前世は、神社仏閣の修復と宝物台帳管理に身を捧げ、残業の果てに職場の床で息絶えた三十四歳の職員。
だからこそ、誰にも読まれない帳面を十二年つけ続けることに、何の苦痛もございませんでした。記録とは、未来の誰かへの手紙ですから。
けれど――退出間際に見上げた玉座には、罅が十七本。昨日より三本増えております。
三百十二本の竜骨で組まれた王座。そのうち二百九本が、当家からの貸与品であることを、この国の誰も知りません。読んでいない報告書に、きちんと書いてあったのですが。
では、ただいま返却を申し受けますね。
筋力E、魔力E、耐久E、敏捷E。スキルは【鑑定(骨限定)】と【記録】のみ。討伐実績なしの非戦闘員が、帳面と鉛墨を武器に粛々と『棚卸し』を始めるとき、王国は自らが何の上に座っていたのかを知ることになります。
地味で、淡々と、しかし確実に。記録する者の逆襲譚、開幕でございます。
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