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ramune 2026/07/20 公開 2026/07/25 15:30 更新
水道局で維持管理ひとすじ、四十年。
定年の朝、感謝状の一枚ももらえずに倒れた男が目を覚ますと、そこは大地震の直後のポンペイだった。西暦六二年――ヴェスヴィオ噴火の、十七年前。
俺は、知っている。この街が灰と軽石に呑まれることを。逃げ遅れた者から死ぬことを。
だが、二万人の街に「山が火を噴くから逃げろ」と叫んだところで、狂人の説教が一つ増えるだけだ。信じてもらえなければ、水道を触らせてもらえなくなる。逃げ道を敷く手立ても、そこで消える。
だから、俺は説教をしない。
水道を直す。浴場を直す。噴水の水圧で街の人気者になり、井戸の水位と匂いを毎日書き付ける「水帳」をつける。祭りの日に「街道を歩いて隣街まで行く」行事を根付かせ、一里塚ごとに水甕と松明を据える。
やることは、全部ただの土木と、近所付き合い。
それが十七年後、避難路と、避難訓練と、避難先に化ける。
噴火は止められない。歴史も、変えられないかもしれない。それでも、配管工には配管工の戦い方がある。
――「逃げろ」と叫ぶ代わりに、逃げ道を、舗装しておくのだ。
街は救えない。それでも、歩ける者は、歩かせる。
無双もチートもない、古代ローマの防災お仕事もの。あるのは、水道と、祭りと、指折り数える十七年だけ。
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