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八咫烏葵 2026/11/01 公開 2026/11/01 17:12 更新
結婚式まで、あと三月。
伯爵令嬢ラシェルの婚約者フィリベールは、やさしくて、詩を愛していて、誰にでも丁寧な人。ただ、一度も目を見てくれない。
月の日の夕方だけ、どうしても外せない用がある。外套には短い黒い毛。手袋の中から出てきた紙きれには「月の日、いつもの温室で。――D」。
Dで始まる令嬢は、王都に十一人。
侍女のお仕着せを借りて尾行した夜、温室の手前の生け垣で、熊のような大男と額をぶつけた。
「あんたが、弟をたぶらかしている女か」
近衛騎士団副団長ベルナルドもまた、毎週抜けだす弟を尾行していたのだった。
並んでのぞいた温室の中で、婚約者が笑っていた。一年間、わたしには一度も見せなかった顔で。
その相手は、黒い髪の、彼の護衛騎士だった。
「わたしは、あなたがたがあきらめる練習をするための、花嫁ではありません」
怒る婚約者、泣く護衛騎士、十年前の割れた鉢を悔やむ兄。そして、生け垣から肩がはみ出す尾行仲間は、なぜかわたしの隣を離れない。
※約1万字の読み切り短編です。男性どうしの恋が物語の鍵になります(描写はキスまで)。ざまぁは軽め、最後は甘く終わります。
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