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八咫烏葵 2026/11/07 公開 2026/11/07 10:10 更新
「女に剣の稽古など要らない。君は刺繍でもしていればいい」
伯爵令嬢マティルドは、亡き父の形見の細剣を、近衛騎士の婚約者に取り上げられた。
父は王宮の剣術師範。「刃は受けるな、手首を刺せ」と教えた「針の剣」の名手だった。
言われたとおり、彼女はひと月、刺繍だけをした。
王女殿下の誕生祝いに献上する、銀の目の隼。一針一針が、父の稽古と同じ速さで布に入っていく。
園遊会の日。花籠を捧げた楽師が、竪琴の胴から短剣を抜いた。
護衛の当番の婚約者は、令嬢たちのほうを向いて笑っている。剣を握れない「灰色の王弟」は、王女をかばって空を握るしかなかった。
王女殿下の喉もとまで、あと指一本。
そのとき彼女の手にあったのは、袖に差したままの、刺繍の長い針一本だけ。
そして王弟殿下は、九年前、物干し竿で自分の手首を突いた十歳の女の子を、ずっと覚えていた。
※約1万字の読み切り短編です。ざまぁは軽め、最後は甘く終わります。
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