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uta 2026/10/18 公開 2026/10/18 20:00 更新
「砂時計は昨夜、止まった。十二年間も管理してきたお前の怠慢だ」
聖堂の大広間で、王太子エルヴィンは新たな聖女候補を腕に抱いたまま、セイラ・ロンドに婚約破棄と解任を言い渡した。
けれどセイラは取り乱さない。彼女はまず、時刻を確認した。記録しておかなければならないからだ。
前世は四十年間ビルの地下でぜんまいを巻き続けた、老いた時計修理工。その指の癖も、几帳面さも、この体にそのまま移っている。十二年間、毎朝六時に《終焉の砂時計》の砂粒を数え続けたのは、この国でセイラただひとりだった。
「残量は、一粒です」
静まり返る大広間。誰も、残量を知らなかった。
聖具は祈りでは動かない。帳簿に記された献納量と、実際の残量が一致してはじめて動く――そう告げても、王太子は「帳簿など飾りだ」と笑うだけ。
「承知しました。では、本質をどうぞ」
セイラは三冊の帳簿を置いて、静かに去る。怒りもせず、呪いもせず、ただ引き継ぎだけを済ませて。
残された国が、数字の意味を思い知るまで――そう長くはかからない。
これは、誰も見ていない朝六時にも、ちゃんと数え続けた人の物語。
声を荒げない追放ざまぁ。淡々と、しかし確かに効いてくる、職人気質の元時計修理工による静かな反撃譚です。
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