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uta 2026/10/18 公開 2026/10/18 19:00 更新
「煙? 煙がなんだっていうの。聖女である私が祈っている限り、護符は壊れません」
王国を守る大結界の護符。その焚き口から立ちのぼる煙の色を、十二年、四千三百八十二日、一日も欠かさず記録し続けた下級事務官シエラ・ミルドレッド、十八歳。
しかし「煙の色を紙に書く仕事」は無駄と断じられ、護符係は本日付で廃止。聖女と貴族たちの笑い声の中、彼女はただ淡々と受領印を求めます。三部。一部は管理局へ、一部は財務省へ、一部は自分の保管用に。
——後任なし。明日から、誰も煙を見ない。
シエラの前世は、現代日本の工場で設備保全の点検記録を二十三年取り続けた、ただのおばちゃん。洗礼で授かったスキルは『記録』のみ。鑑定士に「ハズレですね」と言われ、彼女は笑って「当たりです」と答えました。
壊れる設備は必ず、壊れる前に小さな異常を出す。それを知っている人間にとって、これほどの当たりはないのです。
祈りは煙を白くしません。けれど記録は、黒くなる日を教えてくれる。
声を荒らげず、復讐もせず、ただ正確に。十二年分の手帳を残して去っていくおばちゃん事務官の、静かすぎる置き土産の物語。
「悔しがると、字が乱れますので」
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