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uta 2026/10/17 公開 2026/10/17 20:00 更新
「聖女の参道を、下賤な数字読みの貴様に渡しておけるものか」
大神官の一言で、潮汐記録係ミオラは十二年勤めた神領を追放された。義妹は、今朝仕上げたばかりの潮位表を握りつぶして笑う。
ミオラは泣きも怒鳴りもせず、ただ最後の一行を書き終えた。干潮十六時四十分、潮位マイナス一・〇二、南風弱、月齢二十七――インクが乾くのを十二秒待って、観測帳を閉じる。
「では、本日十六時四十分の引き潮までに退去いたします」
この国の神域へ渡る「参道」は、神の気まぐれではない。月齢と気圧と地形で決まる、ただの物理現象だ。一日に二度、合わせて百二十分だけ現れる道。結界も浄化も豊漁も、すべてその百二十分に懸かっている。
神官たちはそれを「神託」と呼んで占っていた。的中率は、半分以下。
前世は港湾観測所の潮位測定員。救えなかった十五分を悔やみながら机に突っ伏して死んだ彼女は、この世界で三百年ぶんの干満記録を積み上げてきた。その表を、彼女は持って出ていく。
「どうぞ、明日もお言いになってください」
それが唯一の反撃であり、ただの事実の予告だった。
対岸の漁村で、焼いた小魚と固いパンの味を十二年ぶりに思い出す。起きる時刻を、もう潮に合わせなくていい。
――明日から、参道は現れません。
声を荒らげない追放令嬢が、数字と観測だけで静かに世界の基準を書き換えていく、潮の匂いのする物語。
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