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uta 2026/10/17 公開 2026/10/17 19:00 更新
「ユリア・ヴェントよ。十二年の無断欠勤により、貴様を聖遺物管理室から追放する」
王太子の宣告に、私はまずインク壺の蓋を閉めた。乾くと、もったいないので。
――十二年前の深夜。聖女リーゼロッテに背後から樹脂を浴びせられ、私は『人型琥珀標本・整理番号第四〇三号/作者不詳』として、管理室の最奥に立てかけられていた。笑える。その樹脂の配合を調合したのは、十六歳の私自身だったのに。
前世は自然史博物館の標本士。何千という虫を樹脂に沈め、ラベルを書き、番号を振り続けた記憶だけが異様に鮮明だった。だから決めた。腐らないなら、記録しよう、と。
聞こえる会話は一語残らず暗記する。日付は清掃の回数で、月は祭の鐘で、年は冬の湿気の匂いで数える。四千三百八十一回の朝。毎朝頬を拭ってくれた老いた手。月に一度、黙って棚の前に座る眼鏡の男。そして埃を払っていく、優しさではない手袋の指。
春の嵐の夜、棚が倒れ、琥珀にひびが入った。十二年ぶりの空気は埃の味がした。身体は十六歳のまま、時だけが止まっていた。
「私は管理室に来なかったのではなく、管理室から出られなかったんです。棚の、一番奥から」
琥珀は、何万年経っても羽の鱗粉一枚まで完璧に残す。つまり――保存状態が良すぎました。
証拠物件として、提出します。
復讐ではなく、記録で。断罪ではなく、ラベルで。虫けら扱いされた第三補佐官が、十二年分の「記録の作法」で聖女の奇跡を解体していく、静かで執念深い異世界お仕事譚。
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