異世界恋愛 短編

聖女の名前を消されましたが、神殿の名簿係なので――名を失った神像三百四十二体、まとめて台帳に登録し直します

uta 2026/10/16 公開 2026/10/16 20:00 更新

あらすじ

「ミレイア、お前の名を神籍から抹消する。今日から聖女はソフィアだ」

大神殿の断罪の間。王太子殿下の高らかな宣言に、集まった神官たちは泣き崩れる姿を期待した。けれどわたしが鞄から取り出したのは――自分の台帳だった。

「では、抹消手続きの受理番号を発行いたします」

神籍除名、受理番号・神記第七二三一号。理由欄が空欄ですが、いかがいたしましょう。『資質不足』でしたら、別途審査記録の添付に三週間ほど頂きます。

うろたえる殿下に控えを差し出し、名簿の横線が一行ずれていることを指摘して、わたしは断罪の間を去った。三年間、毎日やってきた仕事だ。手が震えるはずもない。

聖女の名を失っても、わたしは神殿の名簿係。

そして神殿の奥には、誰にも名を呼ばれないまま埃をかぶった神像が三百四十二体、眠っていた。台帳から零れ落ち、記録されず、忘れられた者たち。

――まとめて、登録し直します。

名を書き、名を呼び、名を残す。地味で、地道で、誰も褒めてくれない作業。けれどそれは、失われたものを世界に取り戻していく静かな revolution だった。

無表情で不器用な騎士。口の悪い老職人。札を数える少女。拓本を抱えて窓口に並ぶ人々。

「お待たせしました。――お名前、伺ってもよろしいですか?」

泣かない令嬢の、事務手続きによる静かな逆転劇。書類と帳簿と、あたたかいスープの物語。

ポイント

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