異世界恋愛 短編

「鏡の管理人風情が口を挟むな」と追放されましたが、王家の月光鏡は十二年間わたくしが水銀を注いでいたので、三日で曇ります ――前世は精密機器の保守点検員。補充記録簿百四十四冊、全部持って出ます

uta 2026/10/14 公開 2026/10/14 20:00 更新

あらすじ

「鏡の管理人風情が、未来の王妃の器であるはずがない」

満月の夜会、王太子アルフレドは侯爵令嬢セレスティアに婚約破棄を宣告した。泣き崩れるかと思われた彼女がしたのは、懐中時計を開くこと。そして帳面を取り出し、宣告の時刻と文言を一字一句書き留めることだった。

前世は日本の精密機器メーカーで二十年勤めた保守点検員。十三歳で前世を思い出したセレスティアは、侯爵令嬢の身でありながら王城最下級職『鏡守』に志願した。満月の夜にだけ国土を映す国宝・月光鏡――あれは神器ではなく、水銀を使った計測機器だ。計測機器には、保守点検員が要る。

以来十二年。彼女は三十日ごとに水銀を注ぎ、百四十四冊の補充記録簿を書き続けてきた。

「鏡を祈りで輝かせた」と讃えられる男爵令嬢ミレイユ。だが整備直後の鏡は、誰が前に立っても光る。犬が通りかかっても光る。そういう状態に調整したのは、ほかならぬセレスティアだ。

――けれど、彼女は言わない。訊かれていないからだ。

「水差し係など誰にでもできる」
「かしこまりました。引き継ぎ書は、以前よりお渡ししております」
「そんなものを受け取った覚えはない」
「ええ。三度とも未開封で返却されました。封蝋も切られずに」

捨てていない。怨念ではなく、職業病である。

記録簿百四十四冊、全部持って出ます。

水銀は沈む。鏡は曇る。三日もあれば十分だ。

怒鳴らない、泣かない、ただ淡々と数値を記す元保守点検員の令嬢が、「祈り」で動かせると信じられた国宝の正体を、時間とデータだけで証明していく。

機械は嘘をつかない。注いだ分だけ、応える。

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10/30 0 ±0 24 ±0
10/29 0 ±0 24 ±0
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