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uta 2026/10/13 公開 2026/10/13 19:00 更新
「セレスティア・ノワ。お前の聖女補佐の資格を剥奪する」
建国祭の大聖堂。王太子殿下が突きつけた罪状は「聖女への嫉妬による香の妨害」。証拠は、聖女オーレリア様の涙一粒。
断罪の只中で、私がまず取り出したのは黒革の帳面でした。
「記帳です。第四千三百八十二日。晴天。湿度五分三厘。東の風、弱。炭の継ぎ足し、本日九回目完了」
前世の私は葬祭ディレクター・白石澄。炭の火を絶やさず、煙を途切れさせず、誰にも褒められない仕事を十年続けてきた女でした。だからこの世界でも、十二年間ただ黙々と祭壇の乳香を焚き、四十三冊の記録帳をつけ続けてきたのです。
「香など、誰が焚いても同じだろう」
殿下はそう言い放ちました。会場が静まったのは、その言葉の重さにではありません。神殿長の顔が、紙のように白くなったからです。
引き継ぎは不要と承りました。ならば香炉ごと、辞めさせていただきます。
ただ一つだけ、申し送りを。
「祭壇背面に、銀の板が一枚埋まっております。あれが曇っているかどうか、毎朝ご確認ください」
――煙が途切れた七日後、国が傾きます。
誰も見ていない仕事を、十二年。帳面だけが、すべてを知っていました。
地味で、静かで、けれど確かに国を支えていた「火を守る者」の物語。ざまぁは、淡々と。
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